◎さて、広島ウインドオーケストラの話をしましょう。なぜ、広島なのか? 就任までのいきさつなどをお聞かせください。

下野 広島ウインドオーケストラの存在は、木村吉宏さんとのCDを通じて知っていました。僕は広島交響楽団とはよくご一緒していたので、その縁で初めて広島WOに客演することになった時、プログラムを僕にほぼ一任してもらい、広響首席チェロ奏者のマーティン・スタンツェライトにイベールの協奏曲を弾いてもらったりしました(編注:2008年4月20日・第29回定期演奏会)。そうしたらその演奏会で、自分がイメージしていた、あるべき吹奏楽の演奏というものの手ごたえがあったのです。

 

◎それはどのような演奏なのですか?

下野 吹きすぎない、ということです。そして、きちんとした和声感をもとにしたアゴーギクで演奏するということです。それは、吹奏楽も管弦楽も室内楽も関係なく、音楽そのものの本質から演奏を作っていくというスタイル。実は昔から、吹奏楽ってなぜこんなに大きな音で吹かなきゃいけないのだろうか、迫力や快感は理解できるが、違うやり方もあるのでないかと思っていました。管楽アンサンブルが拡大されたもの、ソロの集合体と捉えるべきではないかと。そういう自分の考えに、広島WOのみなさんは高い技術でとてもフレキシブルに対応してくれたんです。波長が合ったというか。そして共演を重ねるうちに、自分が理想とする吹奏楽が、このバンドとなら一緒に実現できるのではないかという思いが通じ合うようになり、今回、音楽監督を務めさせていただくことになりました。

 

◎現在広島WOの定期演奏会は年2回ですよね。今後はすべて下野さんが指揮をされるのでしょうか。

下野 いえ、2回のうち1回は必ず僕が指揮しますが、あとの1回は、僕が信頼する指揮者のみなさんに客演していただこうと思っています。オーケストラの指揮者は吹奏楽は指揮しないものだという思い込みや、見えない壁をなくしたいと訴えています。

 

◎広島WOと目指したい方向とは。

下野 ずばり、脱コンクールプログラムです。それは決してコンクールが悪いという意味ではなく、吹奏楽をやっている方たちだけでなく、きのうはオーケストラを聴いたけど、今日は吹奏楽を聴いてみようというふうに自然に思ってくださる音楽ファンにもたくさん足を運んでいただけるようになりたいという強い思いです。また、多彩なプログラムを実現するためには定期演奏会を増やすべきですし、そのためにもまず知名度アップを図り、地元のみなさんの応援も得ながら、経営基盤も含めてさまざま整備していかなければなりません。そうしてオーケストラと吹奏楽、つまり広響と広島WOが共存共栄していければ、一つの都市における音楽モデルに成り得るのではないかと思っています。

 

◎プロフェッショナル・バンドの果たすべき使命、役割は何だと思いますか。

下野 (熟考して)一つは、現代音楽の旗手であるべきだと思います。上質な作品の紹介者と言いますか。アマチュアの憧れではあっても、模範演奏を課せられた団体ではなく、音楽を鑑賞してもらえる演奏媒体であるべきです。そして、日本のプロ・バンドであれば、もっとわが国を代表するような作曲家に、熱意を持って委嘱すべきと思います。

 

◎最後に、吹奏楽を愛する指揮者として、現在の日本の吹奏楽界への提言をぜひ。

下野 早く、コンクールがなくてもあちこちで吹奏楽が聴かれているような世の中になるといいなと思っています。これ、爆弾発言ですかね(笑)。アマチュアのみなさんには、せっかく音楽をやっているのですから、型にはまらないでほしいものです。

 

ききて・構成:国塩哲紀(コンサートプロデューサー)