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CD「風の国」下野竜也 指揮/広島ウインドオーケストラ (2015.9.発売) 

収録曲:

シンフォニックバンドのためのパッサカリア/兼田 敏 

バラードⅠ/兼田 敏

バラードⅡ/兼田 敏

バラードⅢ/兼田 敏

バラードⅣ/兼田 敏

バラードV/兼田 敏

シンフォニックバンドのための交響的音頭/兼田 敏 

*2015年5月21日に開催された、第34回定期演奏会のライブ録音

 

 朝日新聞 for your Collection <クラシック音楽>にて推薦CDとして紹介される。(2015.9.)

『レコード芸術11月号にて特選盤』に選ばれる。(2015.10.)

 

バンドジャーナル(音楽の友社)2015年8月号より

兼田敏《バラード》の崇高さを表現

広島ウインドオーケストラ

第34回定期演奏会

●5月21日(木)/広島市西区民文化センターホール

●文=鈴木英史(作曲家)

 偉大な精神に接すると尊敬・畏怖・感動が混ざった崇高な想いを感ずる。今回の広島ウインド(HWO)定期で、聴衆の心に刻まれたのはまさに「それ」だった。スーザがいなければ世界のマーチ事情は?岩井直溥がいなかったら吹奏楽ポップスの位置は?と同じく、兼田敏がいなければ日本の「芸術吹奏楽作品」の現在は?という存在だ。しかしその作品は一部を除き再演の機会が少ない。その「再演されない作品」の筆頭の、しかし兼田が一番心血を注いだ作品群の『バラード』シリーズの一挙上演に下野竜也&HWOが挑んだ。国塩哲紀氏発案の優れたプログラミングの意味を感じたコアな聴衆が集まった会場の集中力は、並々ならぬものがあった。兼田未亡人とご子息も来場されておられた。

 なぜ再演が少ないのか?それは「演奏技術の困難」「作品の晦渋(かいじゅう)さ」にある。HWOメンバーも口々に、個々の技術の超高度さ、アンサンブルの難しさ、曲全体の把握のし難さを語っていた。しかし、聴衆として聴いた印象は「高い技術の曲」と感じがしない。きわめて知的かつ妥協を許さない姿勢が音のドラマの持続として一瞬たりとも気を緩ませない。もちろん、下野氏の類い希なる読譜力とHWOのすばらしさの証し。

 演奏は作曲年順、古典的名曲の位置にある《パッサカリア》から下野氏のアプローチは新鮮だ。12音からなるテーマと音楽のフレーズの微妙なズレが魅力のこの曲に、徹底して「パッサカリア」テーマのフレージングに拘る。すると思いがけない色とフレーズの変化を味わう発見。聴衆もこのアプローチに早くも大喝采、聴衆の質もよい。続く《バラードⅠ》は歌にあふれ、アレグロの細かい動きが歌に取り込まれる。旋律のバランスが見事な演奏。《Ⅱ》はコラールでの歌だ。当夜もっともリラックスした演奏。以上2曲はニ長調の主和音で終わる共通点。歌とソナタ形式の頑丈な作りを同居させた演奏、ここで休憩。

 《Ⅲ》はシリーズ中、一番起伏が激しく、アグレッシブで上行跳躍進行の多いテーマと対照的に下行形のレガートなテーマとの落差が、作風の変化を感じさせる。木管一本まで細かく書かれた声部をすべて見せる下野氏の真骨頂。佼成ウインド委嘱作の《Ⅳ》。ファンファーレの序奏に続き、シンプルな旋律と対位法の極みが打ち寄せる快感のように交互に現れる、セクシーさをも感じた名演。《Ⅴ》は饒舌な人が寡黙に語ると、ひとつの言葉に重みが出るように、濃い密度に満ちている。譜面上は一番シンプルだが、音ひとつにさまざまな感情を込めた演奏もすばらしく、最後のへ長調の主和音(Ⅲ〜Ⅴはこの和音で終わる)へ向かう道程で不覚にも自然に涙が・・・・・感情的でなく崇高さへ尊敬の涙。アンコールに《交響的音頭》。「和製ボレロ」が、実は緻密な対位法楽曲であることを発見させる下野氏の読み。

 楽曲の力に圧倒された名演奏続き。打楽器が異様に少ない事にも気づく。多くの課題を未来永劫の吹奏楽界に突きつける兼田敏の仕事は永遠に不滅であり、誰もそれを凌駕していない。本人は今の吹奏楽界をどう見ておられるだろうか・・・・。